The Memories to... 《 i'm in here now. (特に意味は無い。ただ今ここにいるだけ)》 ( 旅の断片的な記憶 言葉の葉切れ )

今までの旅の追想録。不定期に更新。 読んで頂けた方、ありがとう。何らかになりましたら。 気長にお待ちください… (※当物語はあくまでフィクションであり、人物・地名・団体は実際のものとは何ら全く関係ありません。)

I'm here now._005 - Morro de São Paulo (2004)

《モーホ・ヂ・サン・パウロ (Morro de São Paulo, Bahia, Brazil (2004)》

 

どこからどう行ったのか…

おそらくこの前に居たバイーア州ポルト・セグーロからバスで陸路を伝い、サルバドールに行くルートにこの島を挟んだのだ。ここから船でサルバドールへと向かおうと。

道中に、どこかで誰かから、「Morro de sao pauloはGoodだぜ!」てな情報か何かを聞いたのだろう。もしくは『あるきかた』でそうルート決めたのか…

 

とにかく来た。

到着して、割りと近代的で洗練されたような服屋やお土産屋やポザーダ(安宿)群を抜けて、ビーチやそこで遊んでる人たちをくぐってとにかく歩いて奥のほうに来て、またちらほらあるポザーダに何件か値段を聞いて、一泊30Rs、40Rs(当時1R約40円くらい)くらいのおばちゃんのとこに宿取ったと思う。他の地域よりちょっと高めだと思ったかもしれない。

 

宿の部屋でバックパックを降ろして、海パンに着替えたんだろう(おそらく)。

ビーチに行って浅瀬のぬる暖かいきれいな水でひとりでパシャパシャやってた(んだと思う。)何かチラチラこっちを見るとか気にしているロン毛クルクルマロン色ヘアーの親父さんがいて、近くになったとき声をかけてきた。

「ニホンジン?」

て具合だったと思う。

当然、「あ、日本人です~;」みたいな応えを返して、会話した。

名前を聞かれて、応えて、「名前は?」『ジョゼ』みたいな会話をしたと思う。

それで、何で日本語喋れるの?みたいに聞いたと思う。日本に居たことがある、ていったかもしれない。もしかしたら記憶違いか。だけどとにかく彼の奥さんが日系の2、3世でミチコさんという人だった。

恥ずかしそうに最後で『シッコ!』と言った。

「え?」

『ワタシ、ホントノナマエ!』

「なんで偽名を…」

『…ニホンゴデ「シッコ」…Pissノコト!」

「あー!そうか!」

Xicoさんとの出会いだった。

 

ポルトガル語でPissのことはなんて言うの?とかその後聞いたと思う。(『ダイジョーブ?(ワタシがシッコでも?)』と不安気に聞かれて「大丈夫!」という会話とかもしたかもしれない。プライア(ビーチ)という言葉を教えてくれる。ぼくもそれは知っていた。ゴストーゾ(好き!、like)とか)

うちに泊まれ、て言ってくれて僕は失礼ながらも怖々そうさせてもらうことにした。

彼は元々サンパウロで商売をやってたけど、今はそれを引き払って、ここがすごくいいとこだから引っ越してきた、てことだった。

家に行くと素敵なうちがあった。

階段で二階にあがれ、玄関があった。

階段の下に簡単な部屋があって、そこを部屋にしてくれた。

奥さんのミチコさんと息子のホナウドを紹介してくれた。ホナウドはアフリカ系で、日本の中学生くらいの年の感じに見受けられた。

Xicoのうちでの生活が始まった!

 

ーーーーー

 

玄関前にあるベランダ、プラスティックのテーブルとチェアが置かれたカフェスペースに三人で海を向いて座り、話をした。

美智子さんのニホンゴは流暢で、久しぶりに日本語の会話が出来た。サンパウロのリベルダーヂでもそうだったが、少し古風に感じる日本語の話し方をされた。

彼女の日本人からのルーツ、ここに来るまでの経緯、先祖や自分の苦労、ここでの生活、Xicoさんとの出会い、今の商売、ホナウドのこと…。

彼女はもう結構な年齢だったけど、いたって若々しかった。無駄なものを削いだ自然な婦人で、可憐な少女だった。XIcoと、彼との生活を愛していた。

「もうワタシみたいな2世とか3世になると、日本語を少し忘れてしまう」

そんなことを言っていた。

海の風が吹きまくり、空はグレーがかった雲に覆われ始めている。

美智子さんの花柄のきれいでカラフルなワンピースや、白髪混じりの長い黒い髪が風に大きくあおられている。天候に比例して、なぜか美智子さんの顔つきに凄み、険しさ、影、闇、壮絶さ…魂の記録というものなのか…浮き出ている。

Xicoは今、この島で氷を作って売っている。氷を作ることができる大きなフリーザーを持っている人間は、この島で他にいないということだ。需要があるそうだ。

(それを説明するとき、シッコは『パラ・ベビーダス!(飲み物のため!)』と言っていたと思う。それでもぼくがわからずにいると、立てた親指を口元に持っていき、『ベベー!ベベー!』と言った。※それでもぼくはわからなかったかもしれない。最終的にぼくの持っていた「旅の指差し会話帳ーブラジル」を見せて『これこれ』と教えてもらったかも※)

ホナウドは、実はXicoがどこかから連れて来た子供なんだそうだ。

「親がいない子供がブラジルにはたくさんいます。この人はそういうの子供にする、そんなん好きでホナウドもそうやってシッコが連れて来たのよ。」そんな風にミチコさんは言った。

ブラジルのストリート・チルドレンのこと、それを連れてきて一緒に暮らす人、それをどうとも思わず一緒に受け入れるミチコさん、…自然な、人のあり方、生き方、暮らし、命… 陳腐で安直な表現だが、ブラジルというところの懐の広さ(命の模様、人間模様)と接触した気がした。

もちろんそればかりで無いのだろうけども。

その反面や、色濃い影があることは、想像に難くない。

濃淡に変わりつつある空から雨がぱらついてきて、一旦場は開かれた。

ぼくも部屋に戻った。

 

ーーーーー

 

部屋には扇風機が付いている!

シングルの快適なベッドがあって素晴らしい部屋だ!

着替えたか着替えてないかわからない。それで少し休んだんだと思う。

 

夕方だろうか、外がもう暗くなってから。二人はぼくを夕飯に呼んでくれた。

アホース(陸稲米の白いご飯、このときのアホースは何か色が着いていたかもしれない)、フェジョアオン(豆を煮たやつ、ご飯に添えるようにかけてある)、ファロッファ、肉とか新鮮な野菜とかシーフードとかだったか…フェジョアーダもあったのか、何だったか詳しくは憶えていないんだけど、とにかくカラフルで素晴らしく豪華な家庭料理(コミーダ【料理、食べ物】)だった。 

…実はぼくは、…何とも失礼だと思うのだが、この時点でもまだ彼らに警戒心というか遠慮を解け切れていなかった。タダ飯!タダ宿!…これだけのことを無料で奉仕してくれるということが、ブラジルであっていいんだろうか、僕みたいな貧乏青年でも日本人だからブラジルの一般層より持ってんじゃないだろーか…それで奢ってもらってていいのだろーか…、そんな下粋な気持ちを隠し持っていた。あとでとんでもない金額を請求されるんじゃなかろーか、とか…ひどい、辛い目に遭うんじゃないんだろーか…、とかだろう。(無理も無いのだ、何しろ初めての海外だったのだ…ぼく自身がもともとにしろ疑い深い気持ちを持っているということもあった…)

 

ぼくは人よりものすごくご飯を食べる、大分多い量だと思う。「オカワリいる?」って聞いてくれるミチコさんに甘えて、色つきのアホースを何杯かお代わりさせてもらった。それでも、もっと食べたかった。でも遠慮をした。

美味しい食事だった。コーヒーか何か、飲み物も最後に出してもらったかもしれない。

シッコはおもむろに何か取り出して匂いを嗅ぎ出した。

ぼくの鼻元にそれを差し出し、同じように匂いを嗅がせた。マコーニャ(ガンジャ)だった。

『ボン?(Good ?)』シッコが言う。「ぼ、、、ぼん!」

「あなた吸う人?好き?これ」ミチコさんは何とも思わずごくあっさりとただの日常の会話としてそう言う。ぼくは何だかいいとこの子ぶって「え、ええ~…」なんて言った、と思う。

「そう?そんなら好かった。ワタシは吸わないだけど、この人これ好きなのよ」

そんな風に言った(と思う)。

シッコがジョイントを巻いている。ブラジルっぽい、グレーがかった色の草。

巻き終わってシッコはそれに燈を点ける。つんとした、一瞬ぐるっとするようなあの香りがあたりを漂う。吸って…ぼくにマワす、手渡す。

「(やっぱりクサは苦手だ!!!)」毎回こう思う。それでも無理して吸ってしまう。

何回かやりとりを繰り返す。シッコが火を落とす。感覚は変わり、鋭敏さも持つ。

お互い黙っている。いや、何か話したかもしれない。ミチコさんが、

「フマンチ(スモーカー、喫煙者)!マコニエル(大麻喫煙者)、シッコ!」

とシッコを冗談で冷やかし、罵り、囃し立てた。シッコは笑っていた(どうともしていなかっかも)。

シッコが震えている、気がした。何かに本当に小さく恐怖しているように、感じた。

それともその恐怖はぼくのものだったのだろうか。

シッコが少しグレーがかって見えた(気がする)。

 

ディナー・タイムは終わった。

別れ際に、明日の約束をしたのかもしれない。プライアと…『ガンボ(?)』に行こう。ミチコさんがそれを泥の温泉みたいと説明してくれたかもしれない。

(この辺の海はやっぱり浅瀬であったかいんだそうだ。水もすごくきれい。だから遊びやすい、シュノーケリングで熱帯魚とか見るにはとてもいい、などと聞いたかもしれない。)

 

ーーーーー

 

翌日、たぶん朝だと思う。また朝食に呼んでくれた。パオン(パン、ブラジルのパンはぼくは大好きだ!小ぶりなフランスパンみたいな感じで塩味だ!)、白い大皿にハムとかチーズ、野菜やフルーツが乗っている。好きに挟んで食べる。コーヒーも出してくれる。ブラジルでは(少なくともぼくの経験したところでは)みんなもれなく極甘にして飲んでいた(うまい笑)。

「アサイを知ってる?」

「あ、好きです」

「そうなのね、アサイは栄養がとてもあって本当に良いフルーツなのよ、でも今ないの。オレンジ・ジュースは飲む?」

「あ、頂きます」

 

食べてシッコと出かけた。快晴だ!太陽が眩しい…

浅瀬のプライア(ビーチ)の砂浜を、どこかに向かってえんえんと歩いていく。歩く。ズンズン歩く。歩いていく!

少し距離を離れたシッコの後ろをずっと追っていく。

歩く。

シッコの足取りはとても軽い。スッスク、トン、トン、トン、ポンポンといった感じか。穏やかでゆっくりとしている。ビーチもまた。でもどんどん進んでいく。光が照らしている、シッコを、ビーチを。あたり一面を。影ももちろん出来ている。

途中途中シッコは振り返り、何がしか言葉をかけてくる。

後をついて、いく。

 

広いビーチや、岩場。通り抜ける。

 

暖かい。光はずっと景色を照らしている。空、青い。広い。雲が白い。海が広がっている。

 

しばらくして、歩いていく向こうに肌色の岩、崖のようなものが見えてきた。

『ガンボ!』

シッコが指差す、ぼくを振り返る。

おお~!

ぼくらは歩いて、そして、ガンボに着いた。

『ガンボ!』

シッコがぼくの方を向いて、大仰に手を広げる。

トラベラーなのか地元の人なのか、人は結構たくさんいて、そしてみんなその肌色のズルズルヌルヌル、タプタプの半液体の泥に身体や頭をずぶずぶ埋めている。

『Vamos!(レッツゴー!)』

シッコに続いてそのずぶずぶになだれ込む。まさにズルズル、ヌルヌルな感触。

全身がヌルヌル、タプタプの肌色の泥。顔や頭にも泥をすくって塗りこむ。

シッコのウェーブのかかったロングヘアーも泥にまみれていく。ぼくの坊主頭も顔と境無く肌色の泥。

しばらく二人でセイウチみたいに泥の中を気が済むまでひとしきりのたうちまわった。

何でもこの泥が肌をすべすべきれいにするんだとか何だとか聞いた。

シッコが『カメラを持ってるか?』てぼくに聞いて、ぼくが手渡すと、それを受け取って誰かに撮ってくれるよう頼む。

二人でガンボを背に、泥まみれで肩を組んで、親指を突き出しポーズをとった。

かわいらしくポコンとお腹の出たシッコ、痩せて泥まみれのぼく。

シッコが泥のついた自分のお腹をなでて『ゴルド!(太い)』と言った。

 

ーーーーーーー

 

海水で泥を落として、今度は家に向かってまた砂浜を歩く。

青空と白い雲と光る海。

シッコが振り返って『テクノは好きか?ブッチ!ブッチ!』と口で音まねをし、曲げた両腕と両こぶしを胸の前で上下させる。「好きだ」と答える。

モーホ・ヂ・サン・パウロでもプライアでのパーティーがあるらしい。

 

カフェに寄って大瓶でショッピ(ビール)を頼んだ。銘柄はSKOLじゃなくてBRAHMAだった気がする。ビーチに並べられたプラスティックのテーブルセットに腰掛ける。

小さなガラスコップにシッコがビールを注いでくれる。『サウーヂ(乾杯)』

二人で海を眺めながらそれを飲んだ。

よく冷えていたんだと思うが、あまり憶えていない。

ブラジルらしい爽やかな、ビーチに良く合う味と飲み口だったとも思うがそれもよく憶えていない。会話もほとんど少なかったのだと思う。ビールもあまり減らなかったと思う。

そうして、二人で、特に何も必要とせず、海にいて太陽と風にさらされているのが、とても良かったんだと思う。

 

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そこからは本当によく憶えていない。その日も帰ってジャンタ(夕食)を共にし、またマコーニャを一緒にしたのかもしれない。恐らくその次の日だと思う。ぼくは、本当に気持ちが耐えられなくなってしまって、バイーア(サルバドール)に向かうと二人に告げたのだった。(旅を急いだせいもあるのかもしれない)

ミチコさんは、これからの旅を心配して「ポーヂ・ミ・アジュダー(ヘルプミー)」とかそういう、困ったときのポルトガル語での言い回しなんかを教えてくれた。

シッコにはメールアドレスをもらった。hotmailだった。

どのようにしてかそれで、ぼくはシッコの家から出立した。

バックパックをしょって、ビーチを船のほうに向かって歩く。途中でホナウドと二人の男仲間との三人で何やらしているところに出くわす。たぶん、タバコを吸っていたんだと思う。健康的なブラウンの肌の色にその煙というのにぼくはあまり良い印象を受けなかった。挨拶をしてもあまり良い受け答えは返ってこなかった。三人で「誰?こいつ?~ あー…なるほど」みたいな会話にしか受け取れなかった。あまり良いつきあいでもないんだろうか。ホナウドの、もしかしたら拾い子であるという彼自身の心の闇なのか、を垣間見た気がした。それは完全な、ぼくの勘違いなのかもしれない。

 

それでぼくは、エンジンボートのような小さな船で、島をあとにしサルバドールへと乗り継いだ(多分そんな感じだ)。

 

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本当にこのときほど、もったいないというか… もっとゆっくり二人やこの島と、一緒に、ずっと長く 居たかったのだった…。

 

 

《一旦、了。要編集》